第4話
- くまくま
- 2020年8月31日
- 読了時間: 4分
更新日:2020年10月1日
皆様こんにちは。くまくま、だ。
ヌシさん、今日は歌ってないな・・・。今なら思ったところに、僕の生きたいところに行けそうだ。さあ、どこに行こうかな。まだまだ暑いから、どこか涼めるところがいいな。できれば長時間楽しめるところ。ヌシさんに意見を求めた。
『それなら、海とかプールとか川とか?』
なぜ水遊び限定なのさ。僕がヌイグルミだってこと忘れてない? 僕がそんなことをしようものなら濡れネズミならぬ濡れグルミになって、行動不能に陥って水底に沈むのが目に見えてるじゃないか。
『じゃあ屋内施設とか、映画館とか、おうちでまったり読書とか』
・・最後の出かけてないじゃないか。それに僕、本を持っていないんだけど。え、買ってくれるの? 本当に? じゃあ少し前から気になっていた本、これ買ってよ。
『なら今から』
うん、買いに行こう。早く行こう。今すぐ行こう。
『あ、くまくま、ちょっと待って』
ヌシさんの制止を聞かず、僕は喜び勇んで飛び出していた。
本屋さんに到着し、ヌシさんがちゃんと付いてきてくれているかと振り返った。あれ、いない。ヌシさん、足が遅いな。しょうがない、先に本を見ていよう。
店内に入る。程よく冷房が効いていて心地いい。そして、初めて感じる本屋さんの空気も心地いい。きっとこれが、ヌシさんが言っていた「僕を私を読んで欲しいオーラ」に違いない。え、なにそのオーラ、聞いたことないけどだって? ヌシさんから聞いた話だけど、本にもヌイグルミと同様にそれぞれ意思があって、本屋さんにいるときは「僕は私はこんな本です。読んでください、そこのあなた」という念を発し続けているんだって。その念を受け取った人が、その本を自宅に迎え入れるんだって。あ、ちなみに念は本によって波長が違うらしい。
まあ、それはさておき。
僕は、まずは目的の本を見つけてカゴに入れた。ヌシさんがまだ来ないから、他に面白そうな本はないかと店内をぶらつく。あるコーナーにくると、ごっそりと空になっている棚があった。どんな本があったか知りたくて店員さんに聞いたら、こんな返事が返ってきた。
「撤去しました」
撤去? どうして? と尋ねると、店員さんは詳細を教えてくれた。それを聞いた僕は思わず呟いてしまったんだ。作品に罪はないだろうし、他にその作品に関わっている人もいるのにって。その瞬間、周りの空気が冷えた。氷点下になったかと思うくらいに。店員さんに冷たい声でこう言われた。
「あなた、その考えおかしいですよ。だって警察に捕まったんですよ? 被害者もいるし。被害者の気持ちは考えないんですか?」
そ、それは・・。答えにつまる僕の耳に他のお客さんのひそひそ声が入ってくる。
「確かに、捕まった人以外は、はっきりいってとばっちりだけどさあ」
「てか、あのクマ、警察の世話になるような人が関わった作品でもいいんだ。変なの」
「だよね。普通は嫌いになるとか、関心なくなるよね」
「ほんと、おかしいよね、あのクマ」
う、そこまで言わなくてもいいじゃないか。
「とにかく、撤去しかありえません。むしろそれ以外の選択肢があるんですか?」
店員さんはそう言うと、どこかに行ってしまった。そして、周りの視線に耐えられなくなった僕は、本を買わずに店をでた。
帰り道、あれこれ考えながら歩いた。僕の考えはおかしいのだろうか。間違っているのかな? それとも、本屋さんで浴びせられた言葉が極端、なのだろうか。どっちが正解なんだろう、どっちが間違いなんだろう。考えれば考えるほど、頭の中でグルグルと言葉が回る。そんな状態で歩いていたせいか、僕は何かに躓いて盛大に転んでしまった。
『あ、やっと気づいた。くまくま、大丈夫?』
あれ、ヌシさん。そして、ここは、家。ヌシさんが連れ帰ってくれたの?
『何を言ってるの。本屋さんに行くぞ!って叫んで走り出したと思ったらすぐに転んで顔を打って、今まで気絶していたのよ』
へ、あれ、あれれ? じゃあ、あれは夢? それとも、いつものやつ?
『何を言っているのか分からないけど、くまくまが欲しがっていた本なら、ほらこの通り買っておいたから。あとは届くのを待ちなさい』
ヌシさんは、スマホの画面を僕に見せてくれた。確かに購入済になっている。ヌシさんにお礼をいいつつも、僕の頭の中はまだ、さっきの問題で一杯だった。
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