第3話
- くまくま
- 2020年7月30日
- 読了時間: 4分
皆様こんにちは。くまくま、だ。
いや、この間は酷い目にあった。目を開けたら、そこは競馬場だなんて、世のヌイグルミは絶対嫌がると思う。100人に聞いたら、1000人は同意してくれると思う。え、単位とゼロの数がおかしくないかって? いいんだよ、強調しただけなんだから。
さて、最近ぐうたら度がうなぎ登りのヌシさんに、この間の歌について聞いてみた。
「ねえヌシさん、この前歌っていたのに続きってあるの?」
『この前? 続き? なんのこと?』
「ほら、馬がどうとか、子豚のしっぽがどうとか」
『ああ、あれね』
2番までだと思うけどという返事に、僕は突っ込んだ。
『猫がどうとかってのもなかった?』
「それは私が勝手につくったやつ」
替え歌だったんだ、あれ。てっきり3番かと思ったよ。
「そう?」
褒められたと思ったらしいヌシさんは、ご機嫌で歌いだした。別に褒めてはいないんだけど、まあいい。歌ってもらうのが目的だったから。
着く場所は、きっとどこかの猫スポットか、猫カフェだろう。そう思って目を開けると、お洒落なドアが目に入った。「OPEN」と書かれたかわいい看板がかかっている。これはもう猫カフェに違いない。もしそうじゃなかったら、帰ろう。
ドアを開けると、さっそく声をかけられた。
「いらっしゃいませにゃ。お客様、おひとりですかにゃ?」
……にゃ? 語尾がおかしくないか? 聞き間違えたか?
「お客様、どうかされましたかにゃ?」
聞き間違えじゃなかった。その証拠に、目の前には、後ろ足二本でたち、カフェエプロンをつけたハチワレ猫が、いる。
「いえ、なんでもないです」
「お好きな席へどうぞにゃ」
少し迷ったけど、僕は窓際の席を選んだ。三毛猫が水とメニューを持ってきてくれた。
「今日のお薦めは、この『まるで猫のようなパンケーキ 季節のフルーツ添え』ですにゃ。フルーツは桃ですにゃ。あ、お客様も綺麗な桃色ですにゃ」
本当は桜色なのだけど、褒められれば悪い気はしない。素直にお礼をいっておく。
「ご注文が決まりましたら、お呼びくださいにゃ」
メニューをめくる。お品書き(言い方が古いな…)には、ちらちらと猫の文字は入っている。そう、例えば「猫店長のきまぐれサラダ」みたいな人間のお店でもありそうなものから、「猫感激 刺身盛り合わせ」というカフェらしからぬものとか、「猫夢中 マタタビドリンク」という謎なものまである。マタタビドリンクがちょっと気になったけれど、ここは無難にお薦めメニューにすることにした。
「お待たせしましたにゃ」
目の前に置かれたお皿の上には、猫の顔の形をしたパンケーキ2枚とたっぷりの桃。見た目はいたって普通だ。……若干、いやかなりパンケーキが厚い気がする。物は試しにナイフでちょっと押さえてみた。離した瞬間、元の厚さにもどった。今度はもっと強く押さえてみた。これだけ強く押さえたら元には戻らないだろう。そう思ったのに、ナイフをどかしたら、あっさりと元に戻った。
(まるでスポンジみたいだな。味、大丈夫かな)
一口大にパンケーキを切り、おそるおそる口に運ぶ。口に入れた瞬間、おいしくないんじゃという思いは雲散霧消した。
(お、おいしい! おいしすぎる!!)
ふわふわで、噛んでいるうちに甘みがひろがり、溶けるようになくなっていく。ほのかに桃の風味がする。箸が、いやナイフとフォークが止まらない。
食べ終わったころに、三毛猫さんが水をつぎにきてくれた。
「どうでしたかにゃ? 実はパンケーキは、二つ折りにしても折れないのですにゃ。お気づきになりましたかにゃ?」
あの厚いパンケーキが? それは気づかなかったに……危ない、僕まで「にゃ」と言いそうになった。でも、とても美味しくて、また食べたいってことはちゃんと伝えた。
さてそろそろ帰ろうとレジに向かうと、そこには見覚えがある人がいた。記憶の糸を辿る。答えがでる前に、相手が気づいた。
「あら、確かくまくまさん。お久しぶりね」
あ、熱田神宮で一緒に参拝したお姉さんだ。お久しぶりです。
「くまくまさんも、このお店によく来るの? そう、初めてなのね。私はよく来るのよ」
じゃあ、ここに来れば、あなたに会えるかしれないんだ。
「そうね、楽しみにしているわ」
そう言ってお姉さんはお店を出て行った。
お会計を済ませると、トラ猫さんからカードを渡された。
「そのカードのスタンプがいっぱいになったら、お店からのプレゼントがありますにゃ。ぜひためてくださいにゃ」
プレゼント? なにが貰えるのと聞いたら、こう返ってきた。それは秘密ですのにゃと。
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